アメリカでいま「Great Resignation(グレート・レジグネーション)」=「大量離職」と呼ばれる現象が大きな関心を集めている。みずから仕事を辞める人の数が、1か月間に450万人(去年11月)と、過去最多の水準になっているのだ。労働者たちの間で起きるこの異変は、国の中央銀行をも悩ます事態に発展している。
なぜ大量離職が起きているのか。
働く側の変化の始まりは、やはり新型コロナウイルスだ。コロナ禍では、感染を避ける働き方として在宅勤務などのリモートワークが浸透した。しかし、スーパーやレストラン、工場などで働く人たちは、そう簡単にはいかなかった。感染リスクと隣り合わせで働かなければいけない中、リスクと賃金が見合っていないのではないか。そんな複雑な思いを持つ人が増えたとみられる。この事態に、店や会社側は、賃金を引き上げて従業員を確保しようとした。
ところが、この賃上げが、くしくも離職を加速させてしまう。どこもかしこも賃金を上げているのならより良い給料と待遇を得たいと、職を転々とする人が増えたのだ。
アメリカの業種別の平均時給をみると(2月)、「接客・レジャー」は1年前より11.2%上がって19.35ドル(約2260円)、「輸送・倉庫」は7.7%上がって27.72ドル(約3240円)に。
手厚い経済対策が離職に拍車
国の異例の経済対策による手厚い支援が“職場に急いで戻る必要はない”、“時間をかけて仕事を探そう”という意識につながったという指摘だ。政府はコロナ対策として1人当たり日本円で最大37万円の現金給付を実施(3回分の合計)。失業を免れたものの、国から130万円以上の現金給付を受けたという5人家族もいた。
さらに、失業保険を上乗せする特別措置が景気回復局面でも続けられた。多い月には通常の給付に25万円程度が上乗せされ、働くよりも収入が得られるケースがあると分析された。こうした生活保障が、働く側の変化に影響した可能性はありそうだ。
また、コロナ対策としての大規模な金融緩和を背景に、株や土地の価格が上昇し、資産が増えた中高年の間で、早期退職が急増したという報告もある。離職といっても、それが次の職場に移る転職であれば、国全体の労働者は減らない。
ところが、労働省は、「アメリカの労働者数は2年前の感染拡大前と比べて210万人減っている」と指摘。離職した人がそのまま労働市場に戻っていないことが、今の深刻な人手不足のベースにある。
インフレが止まらない
あるピザ店の経営者は経営者の女性は「最近は店の賃料も上がっている。小さな店にはもう限界」と、厳しい表情を浮かべた。全米の企業の労働コスト=人件費は、去年10月から12月に前年比で4%の増加と、20年ぶりの高い水準となった。これにつられるように、消費者物価の上昇率は12月に、ほぼ40年ぶりの7.0%に達し、1月もまた上がって7.5%、2月には7.9%と、インフレが止まらない。
大量離職が問うもの
大量離職は、解消が見通しにくい根深い問題になりつつある。一方、少し視点を変えてみると、働く側が「賃金が上がらないなら辞める」と主張し、雇う側も「ならば賃上げしかない」と応じるこの循環は、現状に行き過ぎの面もあるとは言え、アメリカ経済の強さを示しているようにも感じる。日本では、「給料が上がらない」「賃金は上げられない」という労使双方の悩ましい声を聞くし、目指す“経済の好循環”につなげられない政府・日銀が抱えるジレンマも見てきた。
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